その子の10年後、20年後をイメージする
「K’s club サロン」は、発達外来クリニック医院長・小児科医である河野政樹ドクターと特別支援教育のスペシャリストである小野隆行先生によるQ&Aが発信されるオンラインサロンです。
サロン内では皆さんからドクターに質問することも可能です。
本ページでは、K’s club サロンでの質問と回答を一部紹介します。
今回の質問の概要は次のようなものです。
先生からの相談
小学校6年生の男子です。
昨日、今日と学校で寝ています。
昨日は1時間。
今日は2校時から給食終了までずっと。
給食を食べずに寝ていました。
夜、ゲームをしていて、寝るのが2〜3時。
今日は4時だったと言っています。
「給食だよ。おいしいよ。」
と揺り動かしても、今日は起きません。
その後、自分のタイミングで起きました。
自分の掃除分担場所に行って、掃除をしていました。
これは昨年からは考えられない落ち着き方です。
昨年、掃除はできませんでした。
校長先生からほめてもらって、教室に戻り、私とカルタゲームをしました。
帰りはご機嫌で「先生、さようなら」と元気よく帰って行きました。
発達の特性が強く、他の児童のような対応はできません。
学校に休まずに来ていることが大きな価値がある児童だと思っています。
校長先生も「全くその通り」と言っています。
本児は入学前につながっていた医療機関からASDの診断を受けており、入学後は情緒学級です。
昼夜逆転はどのようになおしていけばよいのでしょうか。
■河野ドクター
■こちらの世界にはオツリで来ている
タイムリーな相談です。
コロナの影響があり、各学校にゲーム依存になっているお子さんがかなりいると思います。
高学年は特にそうです。
私がまだ若かった頃はファミコンがありました。
今のゲームは、当時のものと全く違います。
ゲームというものがコミュニケーションツールになっているのです。
世界中の人とコミュニケーションツールで話ができるというのが、今のゲームです。
そこに新しい世界を築いてしまっているわけです。
こちらの世界には、オツリで来ている状態です。
それがいいか、悪いかは別です。
しかし、成長期にあるお子さんと考えると、先生が心配されているように成長にとっては悪影響であることは間違いありません。
お子さんが大事にされているのか。
真剣に向き合っている人は誰なのか。
その中で、先生は悩み、苦しんでいるわけですね。
なんとか真剣に向き合いたい。
この子の将来を本当に心配している人になりたい。
そういったことが文章から読み取れます。
例えば、このお子さんがうちのクリニックに来たとしたら、まず勧めるのはメラトベル(メラトニン)です。
親御さんも抵抗が少ないです。
海外ではサプリメントです。
これを飲むと、すぐに寝られます。
ASD、自閉症スペクトラム症のお子さんは約80%が睡眠障がいを抱えています。
熟眠できない状態。
生理的にそういう状態になっています。
昼夜逆転をしやすいのです。
その中で本人にとってハマりやすいゲームをやってしまう。
親御さんも「いいんじゃない、落ち着いているし、文句も言わない」とおっしゃる。
これはラクなのです。
そのラクに慣れてしまっている。
ただし、お母さんも流石に「学校に行ってくれれば」という条件でさせているということですよね。
■大人になった時のことを考える
大人になった時に、このお子さんはどうなってしまうのだろうと考えてみます。
心配だし、疑問があります。
メラトベルを飲めば、恐らく早いお子さんは約5分で眠たくなります。
夜遅くなるまではゲームができなくなる。
途中で寝落ちしてしまう。
次の日の朝、起きることができる。
学校に来ると、今までよりも少し爽やかな状態になります。
この真剣な先生と向き合うことができます。
その時に最初から勉強しようじゃなくていいと思います。
ゲーム以外に世の中楽しいことが山ほどある。
それを実感して欲しいし、大事にされるというのはどのようなことなのかを体験して欲しいです。
自分は大事にされる、非常に真剣に向き合ってもらえる。
これはお子さんにとって、気持ちよい体験になります。
その延長線上に、スポーツなのか、ゲームなのか、学習なのか、そういったものが来るのだと思います。
■不登校への対応ではなく、依存症への対応
このお子さんは不登校なのかという問題もあります。
不登校であるならば、私の考えでは、来るだけでもいいじゃないかと思います。
毎日起きてくることがよい影響を与えますから。
しかし、この子は不登校というよりも依存症です。
薬物依存やアルコール依存と、ほぼ同じなわけです。
そうなると、この子にゲームを与え続けるということは、より依存を深めてしまいます。
大人になっても、今のままでは抜けられません。
親御さんが覚悟しなければいけないことがあります。
自分が70〜80歳になってもこの子は家でゲームをしている、ということです。
それをおわかりでしょうか。
医療者の立場から言うと、まずは依存症治療が必要です。
そのために、最も害がないところでいうと、メラトベルがよいかな、と。
ある程度、ゲームの制限ができるようになった時に、本人が寝るかもしれません。
興奮したり、イラッとするかもしれません。
その時には多少、他のお薬を加えて、安定させていくということが大事です。
担任の先生の強い思いは感じます。
その上で、今のままではいいですか、という質問は「よくないです」と答えます。
医療ですることはありますか、と言われたら、「たくさんあります」が答えになります。
どの地域か、その医療資源、つながる先生、医療機関にもよります。
担任の先生と校長先生の意見がずれるように様々なドクターがいますから。
また、この子の10〜20年後が大事です。
それを考えながら、接してくれるドクターがいるならば、親御さんだって気持ちが変わります。
多くの患者さんは、どうせ行っても診断だけつけられて、お薬をちょっと出されて、質問にも答えてもらえない、というのが不安なのです。
そこを考えた上で繋いでいけるといいかな、と思います。
■小野先生
■外的なプラスの働きかけをする
「先生、さようなら」と元気に帰っていくというのは、夜2〜3時に寝たのですから、目が覚めたのでしょうね。
覚醒すると、すごく調子がいいということは、先生との関係性やクラスの居心地も悪くない、と考えられます。
その部分を増やしていくことは学校ができることです。
担任の先生がえらいのは、掃除をして校長先生から褒めてもらうような外的なプラスの働きかけをしていることです。
通常、担任だけで終わります。
私はよく校長先生を活用していました。
「一日一回は来てください」とお願いをしていました。
「昨日までできなかったことができるようになったんですよ。」
「すごいねぇ。河野くん!」
のようにです。
この学校、何百人もいるのに、褒められるなんてラッキーだぞ。
ちゃんと帰って親御さんに言うんだぞ。
このようにして連携するわけです。
お子さんからしたら、うれしいですよね。
この状態を増やしたいなと思わせたら、そこで初めてちょっと早く寝たほうがいいかな、となっていきます。
こういったことは、学校でできる大切なことです。
お子さん本人がどうしたいか、を考えさせなくてはいけません。
そのためには成功体験が必要です。
成功体験をして、いい気持ち、いい感情、いい体験をした上でしか話はできません。
ですから今はチャンスですよね。
■お母さんは変われる
また、お母さんがゲームのコントロールをできています。
こんなに夜中までしているお子さんなのに「捨てる」と伝えると従っています。
眠くても学校へ行っています。
2時間目から寝るような状態なのに、よく歩いているな、と思います。
この約束ができるということは、お母さんの考え方を変えれば、できる可能性もあります。
多くの場合は、お母さんの言うことを聞かずにやりたい放題になります。
お母さんもあきらめます。
家で注意をすると暴れるので、仕方なく許すわけです。
でも、そのようなわけではありません。
ですから、可能性があります。
お母さんに伝えるのであれば、学校に来させていることへの感謝、お礼を伝えたほうがいいです。
その上で、このお子さんのことを思っているのであれば、このお母さんに、
「寝る時間をちょっとずらすだけで、できることがもっと増えますよ」
と伝えていくべきだろうと思います。
■お母さんは変われる
加えて、情緒学級はこのお子さんに合っています。
この環境を中学校でも維持しなければいけません。
そのためには、中学校に進級するときに再度検査を受けなければいけない自治体があります。
そういった検査に必ず行ってください、と発達検査に連れて行きます。
中学校で望ましい環境を作るために、そういった証明を取得する。
情緒学級を維持する。
このようなアプローチは必要かと思います。
メラトニンは効きます。
コテンといきます。
入眠の補助になってくれます。
「寝れたね」と親御さんも言ってあげることができます。
やればできるということがわかれば、体験や結果で動けます。
特にASDのお子さんであれば、なおさらです。
理詰めでやっていかないとお母さんは変わりません。
諦めている部分もあるかと思いますから。
学校で方針を立てて、手順や方法を論理的に説明することが大切です。
そうしなければ悪くなる一方です。
【まとめ】
中学校というのは大切なポイントです。
小学校から中学校に変わるというのはチャンスなんです。
チャンスでもあるし、受け入れる中学校の状態によっては悪化する。
きちんとチャンスにします。
中学校はシステムが全く違います。
教科担任制ですし、ASDのお子さんは喜びます。
いろんなタイプの先生が現れるのがうれしいからです。
楽しくなってくる。
そういう新しい体験を今のように学校に来られる習慣を残して継続できたらいいですし、医療につなげるきっかけにもなります。
※内容の全部、もしくは一部の無断転載を禁止します。
※本記事の内容は「K’s club サロン」の一部です。お子さんの発達や障がいなどについて、さらに詳しく知りたい方は下記をご覧ください。
〈ドクター〉
河野政樹(虹の子どもクリニック院長)
〈特別支援教育専門家〉
小野隆行(株式会社イージスグループ代表取締役)
〈引用〉
K’s club サロン
https://hikarinoniji.supersale.jp/about#mainabtkuMDE1Mj
K’s club サロン:発達障がい関連グッズ
https://hikarinoniji.supersale.jp/categories/3084689#mainidxkyLjg4Mz
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