vol.02「理にかなっているプログラム」

■違和感の正体は背骨

前回、ずっと違和感があった。
光の村で目にする生徒たちが、これまでの私の持つ「知的障がい者」のイメージと大きく異なる子どもたちだったからだ。
比率としては重度障がい者が多い。
しかし、みんな、ちゃんとしている。
この「ちゃんと」を、私自身が説明できなく、もやもやしていた。
前回の訪問から3週間(前回5/27)。
その時と異なるメンバーでの訪問。
もやもやが解決するかもしれない。
一緒にどうですか?の打診に「行く」と即答した。
まずは前回同様の和太鼓演奏。
一矢乱れぬ演奏。
やはり圧倒される。
元小学校教員で特別支援教育関連の書籍を複数冊出版している小野氏(株式会社イージス代表取締役)が演奏後に話しかけてきてくれた。
「太鼓、どう思いましたか」
「すごいですよね」
「揃っています。知的障がいのある子どもがあれだけ揃えられることが圧巻です。周りを見て、協調できています。生活面すべてでないにせよ、一部分でもあのように協調した活動ができること自体が奇跡です」
「ですよね…」
「まだあります。背骨が立っています。知的障害のある子どもの多くは運動不足で背中が丸まります。それがないです。背骨を立てて太鼓を叩いています。疲れにくい体幹がある証拠です。『就労』につなげられる可能性が高いです」
「なるほど。。。」
「学校のプログラムを拝見するのが楽しみですね」
同じ演奏を見ていても視点が違う。
学校よりも長い時間を過ごす就労。
ここに繋がる光の村オリジナルのプログラムが前回よりも明らかになると思った。

■理にかなっているプログラム

学校説明を受ける。
水泳、縄跳び、自転車、ランニング。
その集大成としての「宮古島トライアスロン卒業旅行」(コロナ後は行けていない)。
また、校舎を見て回る。
パンの製造場、箱折りの作業所、さをり織の機織り。
生徒たちが取り組んでいる。
多くの小中高等学校や特別支援学校が取り入れている「座学」はほぼない。
1日のほとんどを立って過ごしている。
見学中、先程の小野氏が何度も口にされた言葉がある。
「すべて理にかなっています」
小野氏と古庄教頭の間で次のような話をしていた。
方程式は大切でしょうか。
不要とまでは言わないですが、実社会に出てから使う機会はありません。
それより本校では、トイレに一人で安心して行けるよう、お風呂で体を洗えるよう、また、就労に繋がるよう、トレーニングをします。
一生使える力を身に付けさせます。
学習して身に付けられる量がけっして大きくない子どもたちにとって「選択」は極めて重要です。
何を教え、何を教えないか。
これをはっきりさせておくことで、障害のある子どもたちでもできることを探せます。
まずは体幹を鍛える基礎体力向上プログラム。
そして、それを活用した職業訓練プログラム。
合わせて伸ばすことが理にかなっています。

■優れたプログラムの穴?

同時に小野氏は、プログラムを補強するとよいと話し始めた。

先生がとても優しく一日中寄り添って、子どもたちと共に活動していますよね。
将来迎える1日8時間の社会人としての労働。
ここに耐え得る子どもたちを育てるための教育活動。
このプログラムを医療などの専門家に見て、分析してもらったことはありますか。
私は5回程、アメリカの特別支援教育の視察へ行きました。
日本より30年進んでいるという感想を持ちました。
それぞれのプログラムが、光の村のように進んでいるのですが、それだけではなかったです。
一人ひとりの先生がそのプログラムの意図を明確に説明することができたのです。
このプログラムは間違いない。
むしろ日本最先端です。
そこに、理論を添えて、対外的に説明できることが今の時代には求められています。
それを専門家から教えていただき、先生が説明していけるとよいです。
就労予定先、保護者、地域へ、そういった説明ができることは極めて大切です。

医療関係の専門家。。。
ぜひ同行させていただきたいと思った。

■困ったプログラムの活かし方

「さをり織」という糸から作る織物がある。
「城みさをさん」が考案した「差(個性)を織る織物」なので「さをり織」と言うそうだ。
様々な模様の作品が山のようにある。
美しいなと思って拝見していた。
指導者側から見るとそれだけではないそうだ。
「さをり織は手先を使います。足も使います。細かい作業も、体全体を使う作業もあります。とてもよいプログラムです。でも、作品が溜まるのです」
山のようにある作品。
生地の状態もあれば、バックになっているものもある。
どれも一つの商品になりそうだ。
ただ、私自身がこのバックを自身が使うため、もしくは誰かに贈り物にするために購入するか。
恐らくしない。
布の個性が強すぎて、普段使いしにくいのだ。
今回、ジャパネットたかたの通販事業でも仕事をしている方と同行していた。
フォーマルバックや和装の小物を製造販売している株式会社IWASAの岩佐社長だ。
さをり織を熱心に見ている。
周りの方が声を掛ける。
「クオリティはいいと思うんですよね」
「これ、一部分だけだとかっこいいんですよ。パンツのサイドとか」
「よい形で世に送り出してあげられたら…」
そのどの声かけにも明言はせず、岩佐社長は、ただ真剣な表情で写真や動画を撮り、考えている。
見学の最後に一言だけ「すごいですよね」と誰に向けて話をするでもなくおっしゃっていた。

■プロが作るとどうなるか

見学を終えて総括ミーティング。
学校や見学案内をしてくださった方が思いを語る。

一般企業や就労継続支援A型事業所。
ここに就ける障害のある子どもは幸せです。
給与は約10万円以上。
自分の稼ぎで何とか生きていくことができます。
B型事業所。
ここになると苦しいです。
工賃は約1万円。
とてもではないですが、生きていくことは相当に困難です。
今の日本には、この間を埋めるものはありません。
せめて工賃で月に5〜6万円+障害年金。
それがあればなんとかやっていけます。
しかし、そのような仕組みはないのです。
なければ作ればいい。
学校も、民間も、協力して。
今回がそのきっかけにできたらと思います。

岩佐社長が口を開いた。
「まず、その一歩。うちのプロに同じもの(生徒たちが織ったさをり織の生地を使った製品)を作ってもらいましょうか。比べてもらって、そこから様々考えていきましょう」
同席している方がどよめく。
山のようにある布や製品を販売するという話にはならなかった。
それでも一歩進んだからだ。
「可能性…ありますよ」
前向きな発言。
二度目のどよめき。
プログラムからお金を生み出す可能性がある。
教育の充実を図るために、私立の特別支援学校からすると喉から手が出るほど欲しい方向性だ。
でも、そこだけに目を向けていないのが教育に携わる「先生」だ。
次の発言が今回最も印象に残った。
「子どもたちが喜びます。自分たちの織った生地をプロの方々が製品にしてくれる。それを自分たちの作品と比べられるなんて」
就労率100%を目指す学校。
クオリティの向こう側に就労を見ている。
それを強く感じた。

《リンク》光の村土佐自然学園HP

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