働くことへのイメージができれば、障がい者や企業に大きな可能性が生まれる

その子が悪い、家庭が悪い、クラスが、学校中が、ダメになる?

株式会社イージスグループの小野隆行です。教師として小学校で約26年間、主に特別支援教育に関わってきました。発達障がいや、特別支援教育などが世に謳われ始めた頃から関わっています。

最初のきっかけは、ADHDの診断を受け、学校中で誰も持ち手がいないA君を担任した時です。今でしたら様々な理解が進んでいるのですが、当時はその子が悪い、家庭も悪い。その子がいるから、クラスが、学校中が、ダメになるといった風潮でした。それはうちの学校だけではなく、私が知っている限りほとんど日本全体がそうでした。

そんな時に、アメリカの特別支援教育研究者の本を読む機会があり、発達障がいの子に対する正しい指導方法があることを学びました。その通りにやってみました。すると、もともとスポーツも得意で、ユーモアもあったA君は、クラスのムードメーカーになっていきました。学校で人気者になって、学級委員も務めました。今までのことが嘘のように、すべてうまくいきました。

つまり、周りの指導者、環境、理解がちゃんとその子に合った方向に向かえば、発達障がいの子の良さを生かせる。そういうことを学びました。それは、その子を特別扱いするということではなくて、周りの子にとっても優しい方法だということに気付くわけです。

そこから20年間、大学の先生、研究者、ドクターと共同で研究を進めて、色々な成果を上げてきました。著書もたくさん出しましたし、年間200回を超えるような相談も学校で受けていました。毎週末には、研究会、セミナー、学会等の登壇などをずっと続けてきました。

それはなぜかというと、A君のような子を二度と出ないようにするためです。周りの理解や、教師の理解、スキルが上がっていけば、どんな子だって自分の持ち味を発揮して、自分の良さを出しながら発達していけるという確信があったからです。

解決できない課題への10年の葛藤

そんな中、保護者からの相談の多くは次のようなものでした。
「小野先生が担任している間はいいけれども、その後どうなるんですか?」
「中学・高校に行ったらどうなるんですか?」
「それから社会に出たらどうなるんですか?」
子どもの将来についてが、保護者ほぼ全員の不安であり、聞きたいことでした。

発達に障がいを抱えるお子さんは、一貫した教育、一貫した支援が必要だということは、誰でもわかっていると思います。小学校と中学校は義務教育です。しかし中学校は、「小学校ほど手厚くはできない」というところがほとんどです。同じ地区の小・中学校でさえ、このような現状です。これが中学校から高校、高校から大学や就職現場に行った時に、もっと大きな格差があるということは、みなさんがご承知の通りだと思います。

「この子たちが大きくなって、社会に出て働く、その後幸せな生活を送っていくとなった時に何が必要なのですか。そもそも、どうすれば就職できるのですか」
という問いに、私は答えを持っていませんでした。そこから10年近くの葛藤が続きましたが、ずっと答えがないまま、最近まで至ってきました。

自立した教育と労働人口の減少

そんな時に、生き生きと、しっかりとした給料を稼ぎながら、しかも余暇も楽しみながら過ごす障がい者の人たちと出会います。それが今、私が共に会社をやっている、広島の尾道の福祉関連の事業所の社長でした。その社長の言葉が印象的でした。
「限界を作っているのは周りの大人なんだ。自分たちは学校で就職できないと言われた子たちを雇って、立派に戦力として仕事をしてもらっている」
みんな大事な戦力だというのです。

そこで私は二つの新たな問題に気づきました。
学校の目的というのは、将来自立した人間を育てるということが最重要の目的です。一つは、それが将来を見据えた教育をできているのかということ。それからもう一つは、社会全体を見渡した時に、労働人口が少なくなっているということ。
「働いてくれる人が足りないんだ」
という声をたくさん聞きますが、一方で、障がい者就労がうまくいっていない、まだまだ足りないという状態だということ。なぜですかと理由を聞くと、
「どうやってその子たちに仕事を覚えてもらったらいいのか」
「自分がどういうふうに接したらいいのか。その子たちを幸せにできるのか」
「そもそも働けるイメージというのがない」
という内容が多かったのです。

働くというイメージの具現化が必要

学校側からも、企業側からも、働くにあたってのイメージがない現状。
福祉の多くもそうでした。B型で働くことしかできない、と思われている人たちも私から見ると、この人たちはA型でできるのではないかと思うこともあります。生活介護の人たちもB型でできるのではないかと思うこともあります。

ドクターの悩みも同じでした。学校適応はなんとか助けることはできる。しかしその先のイメージがない。全ての福祉、医療、学校、企業。問題点はイメージなのです。そのイメージを解消するために何が必要かを考えていた時に『障⇔障継承プログラム』に出会いました。

あるドクターの言葉がすごく印象的でした。
「13歳のハローワークってありましたよね」
と様々な職業を中学生にイメージできるように、働くってどういうことなのかが分かりやすく書かれている本です。しかし、あの本は障がい者には全く適応していないのです。「障がい者が稼げる仕事が載っていないのです。だからこの13歳のハローワークの障がい者版が必要なのです。」
という話をされました。

そこで私は『障⇔障継承プログラム』を紹介しました。するとドクターは、「まさにこれが欲しかったんだ!」と。発達障がいで日本のトップを走られているドクターです。これを多くの企業や、学校や、保護者に見せて欲しいと言われました。そういう仕組みを作って欲しいとお願いされました。

イメージが可能性を生み出す

小・中学校の子どもたちや保護者に、自分たちが将来どんな仕事につける可能性があるかを聞いた時に、答えられない方が多いです。そもそもどの仕事がどのくらい稼げるかということもわかりません。イメージがないことに人間はがんばれませんし、そこに向かって努力することもできません。ですので『障⇔障継承プログラム』は、学校においてどんな仕事があるのか、どんなことが稼げるのか、どういうことが社会に必要とされているのか、ということを学ぶ絶好のツールだと思います。

さらに我が子の将来を心配する保護者にとっては、非常に大きな安心感になりますし、今まで子どものために探していたことや、考えていたことのイメージが大きく変わると思います。
「こんなに自分たちの子どもには可能性があるんだ」
「こんな仕事だったらうちの子は活躍できるんじゃないか」
そういったことを考えるようになる大きなきっかけになるのではないかと思っています。

企業にとっても、どういった形で障がい者の人たちに働いてもらうかということの対応だけではなく、新しい職種も生み出せるのではないかなと思っています。既に様々な企業が様々な仕事を障がい者の方々に取り組んでもらっていて、多くがその企業にとってなくてはならない戦力になっています。

福祉関係の方や、ドクターにとっても同じです。イメージがあれば、人間は新しいこと、新しい枠組み、新しい方向を生み出すことができます。

障がい者就労のハブになる障⇔障継承プログラム

だから、この『障⇔障継承プログラム』は、関わっている人たちが増えれば増えるほど、子どもたちが本来持っていた強み、興味関心、意欲がさらに大きくなっていく。福祉や医療や家庭や学校、そういったもの全部をつなぐ中心になる。要は『ハブになるような存在』になるというイメージを、非常に強く、確信に近い形で私は持っています。

私の会社は、就労訓練に特化した中高生向けの放課後等デイサービスを全国に広げていく会社です。『障⇔障継承プログラム』に載っている、稼げる仕事、強みを生かせる仕事、そういった就職先までつなげていくということを、自分たちの事業として進めています。

実際にイメージができて、学習のツールとして利用できて、可能性を感じられて、そういったものがずっと欲しいなと考えていた時に、この『障⇔障継承プログラム』に参加する機会をいただきました。私も自分の場で広げていきながら、このプログラムをもっと大きくしていくことに貢献したいと思っております。

オープニングではたくさんのドクターや行政の方々、政治家、あるいは芸能人の方々など、様々なところに大きく影響を与えてくださる方々が出てくださいました。それぞれの場で将来の日本のために、将来の子ども達のために、このプログラムを広げるお手伝いをしていただきたいと切に願っております。それは私が20年以上関わってきた現場で、もがき探してきた答えの一つになるのではないかと思っております。

ぜひとも自分のお知り合いの方、お世話になった方、関係がある子どもさんや保護者の方たちにこの『障⇔障継承プログラム』を紹介いただきたいです。日本中が当たり前のようにこの『障⇔障継承プログラム』を使うようになれば、家庭や学校、企業を含めた日本全体が大きく変わっていく。そんな大きな夢をもって、この『障⇔障継承プログラム』に関わっていきたいと思っています。

株式会社イージスグループ 代表取締役 小野隆行

関連記事一覧