vol.01「就労から逆算した教育活動」

■就職率100%を目指す特別支援学校

「このままじゃ学校がなくなります」
「生徒数が増えればできることが大きく変わる」
「一時期の取組と比べると現状は…」
打合せの冒頭。
自信喪失の言葉が連続した。
先生方が自信を失いかけている学校?と思った。
高知県の市街から離れた場所。
山間を開墾して作られた全寮制特別支援学校。
全国から障がいのある中高生が入学してくる。
就職率100%を目指している特別支援学校。
ホームページ以外のあらかじめ教えていただいていた情報はこれだけ。
これで視察へ行く。
行く前のイメージは決して良くなかった。
ホームページは正直古臭く、更新もマメではない。
Facebookはやっているものの、昨今のコロナ禍の中、身動きが取れない印象もある。
生徒たちは一般社会では生活できない子たちが仕方なくこの学校へ!?という印象がどうしてもついて回る。
訪れる前に集めた情報だけでは「就職率100%を目指す特別支援学校」というイメージにはどうしてもならない。

■教員の努力の先にある成果

高知市街から案内してくださった方の車で学校へ。
「着きましたよ」
真っ直ぐに500mほど続く道路の向こう。
畑と山の境目に校舎が見えた。
開墾して作ったという事前の説明に納得した。
「この道、毎朝子どもたちが走るんです。体力がないと働けませんから」
校舎ははるか遠く。
「えっ」
と絶句していると、
「朝は5時からパンを焼く日もあります」
二度絶句。
マラソンも製パンも障がい者だけでやるわけではないだろう。
私は以前教員をしていた。
朝は早く学校へ行くが、それでも8時より少し前くらい。
光の村は勤務スタートが5時?
自宅を出るのは…と考えると、それだけで先生方の熱意を感じる。
仕事だから当たり前。
そういう考え方もあるが、当たり前のことを当たり前にすることは当たり前ではない。

■「部外者対策」は勘違い

歓迎の意を込めて、和太鼓の演奏と校歌を歌ってくれるという。
靴からスリッパに履き替えようとして、下駄箱が普通ではないことに気がついた。
生徒の靴が全てきちっと揃っている。
視察をするとよくあること?と思った。
部外者が視察に来る時によくある話だ。
『部外者の動線を考えて、見えるところをキレイに保つ』
すぐに違うと分かった。
山間の学校で、作業棟や体育館など複数の施設を行き来するため、生徒は靴が複数必要だ。
どの下駄箱も全て揃っている。
指導の成果だとわかり、凄さを感じた。
和太鼓、校歌。
複雑な動きを次から次に演奏し、歌う。
その後で見学した木工加工、箱折作業、パン製造。
どれも一生懸命に作業している。
もちろんできていない部分があるが、それは先生がつきっきりで指導している。
割り箸を削る作業では、
「もっと端まで削る」
「ここまで削る」
「もう一回」
しつこくならないように一回ずつ言葉を変えて指導している。
重度知的障がい!?のイメージが!?
混乱してきた。
私が今までに見てきた障がい者は、叩く、蹴る、じっとしていられない、ずっと歌っている、自傷・他傷行為を止められている…
集団で演奏をする、作業をする、というのは超ハイレベルだ。
それを中1から高3までの生徒が見学中、継続して行なっている。
あるんだ、こんな学校が、本当に。。。
説明を受けて、ほんの少し理解できたような気がした。
次のような話だ。

■特別支援学校は就労が身近

他の校種と比較すると特別支援学校は就労が身近です。
人生は、教育を受ける期間よりも就労している期間の方が長く、また生活に直結します。
毎日同じことを繰り返す力をつけるために作業を学ばせています。
また、障がい者が就ける職種は生産工程や現場作業が主になります。
その時に1日8時間立って作業する体力がないと就労が成立しません。
だからこそ、就労から逆算して教育活動を行なっています。
言うのは簡単だが先生方は大変だろう。
実施にそのような指導を継続したとしても、1年かけて少し成長したら御の字。
そういった就労に向けた指導を毎日繰り返し行う。
永遠にも近い作業だ。
「今まで見てきた学校の中でダントツにすごいです」
素直に伝えると、冒頭の言葉が返ってきた。
生徒数が少ないからできないことが多くある。
教員数も減少したため、動かせない機械が出る。
生徒の学びの場が減る。
広報の担当が兼務になるため、校外への紹介機会が減る。
教員も生徒も学習や作業へのフィードバックがないため自信を喪失する。
しかもコロナ禍で、企業などからの作業依頼そのものが減少し、生徒ができる世の役に立つ仕事自体が減少している。
こうした負の渦がぐるぐると回って、抜け出せない。
それなら、これからすることは難しくない。

■指導方法の賛否を問う

多くの方から見ていただけばいい。
障がい者やその家族、障がい者福祉に携わる方たちや自治体・企業…。
走る、作業をする、規律正しい生活を送る。
そういった指導そのものに賛否を問えばいい。
「正しい生活と繰り返しの力が働く力をつける」
「働くことで得られるお金のことも学ばせた方がいい」
「一人でも多く、社会で活躍する障がい者を育てることが教育目的」
「例えどれだけの重度障がいがあったとしても、卒業後の進路は最低でも工賃5万円以上」
賛否を問うといっても「提案」だ。
全国にはこういった指導をする特別支援学校が他にもあるだろうし、異なるコンセプトを持つものもある。
障がい者や保護者には学校を選択する自由がある。
光の村をネットで見て、自分の目で見て、違うと思えば入らない。
共感できれば入る。
たったそれだけのことだ。
少なくとも私個人としては、こうした教育活動を展開する光の村に勤める先生は、もっと誇りを持っていいと思う。
これから継続して、光の村の取り組みや就労に繋げるまでの道のりを『数値』『実際の生の声』をベースに記録していく。

《リンク》光の村土佐自然学園HP

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