みんなで苦しむのは一旦やめよう

「K’s club サロン」は、発達外来クリニック医院長・小児科医である河野政樹ドクターと特別支援教育のスペシャリストである小野隆行先生によるQ&Aが発信されるオンラインサロンです。
サロン内では皆さんからドクターに質問することも可能です。
本ページでは、K’s club サロンでの質問と回答を一部紹介します。

今回の質問の概要は次のようなものです。

小学校の先生からの相談

小学校4年生の男の子です。

【よいところ】
絵が得意、文字がきれい、友だちから好かれている。

【課題】
小3途中から登校を渋るようになる。
別室登校になった。

小4終盤のコロナ禍の分散登校では、母親と共に教室で過ごす。
しかし、分散登校が終わり、通常登校になると別室登校が始まる。

小5。
1日1時間は担任と教室に入ることを約束する。
1学期は、1週間のうち4日程度は登校。
1日は休むというペース。
別室では母親とともに過ごす。
課題を取り組むように促すが、なかなかできない。
図工などは好んですることが多かった。

夏休み後には、不調が続き、登校できない日が続く。
登校した日も教室に入れず、別室で母親と過ごす。
母親が参ってしまってきた。
スクールカウンセラーの話では鬱とのこと。

本人、保護者、担任、スクールカウンセラーで相談して、毎日の登校をやめ、週2回の登校へ切り替える。
登校した日は1時間教室に入り、できたら帰るという約束になった。
別室では課題をするでもなく、過ごしている。
教室でも座っているだけで勉強するわけでもない。
休み時間は、友だちと楽しんでいる様子。

この子について、何を目標にして、どのように過ごさせればいいかわからない。

学習については2学年程度遅れている。

■河野ドクター
■本人のしたいことや気持ち
こういう相談はウェルカムです。
私は不登校の子どもを見るために医者になりました。
学生時代からずっと不登校を見ています。
彼らのパターンは、読んだだけでわかります。

そもそもの問題は、不登校の子どもになぜ勉強させるのか、どうして教室に入れようとするのか。
これを基本的に考えていかなければいけません。

担任の先生の思いが強いのではないでしょうか。
先生がしたい約束をしています。
お母さんも、先生も、本人のしたいことや気持ちを聞いているのでしょうか。
本人が何をしたいのでしょうか。

学力的には2学年遅れているということです。
その中で、教室に座って、どんな楽しいことが待っているでしょうか。
私なら行きたくないですし、勧めないです。
皆さんが母国語以外の授業に毎日1時間来てくださいと言われるようなものです。
これで意欲が高まるでしょうか。
難しいですよね。

■時間が短くてもいいから家から出る
お母さんと2人で別室ということについてです。
お母さんはどのような気持ちで連れてきているのでしょうか。

これは鬱になります。
何も生まれませんから。

私が不登校の研究を長年している経験からすると、彼らの目標は、何時間いるか、どこにいるか、何をするか、ではありません。
時間が短くてもいいから家から出ることが大切です。

また母子登校をしているのであれば、いかにお母さんを褒めるかも大切です。
「とても大変なのに、よくがんばっている。素晴らしいことだ。」と。

その上で勉強をさせようとか、教室で授業を受けさせようと色気を出すと、必ず固まり状態が悪くなるのが常です。

ですから、少し来られるだけでいい。
授業に出なくても、友だちと遊びたいのであれば、それでいい。
この子が何をしたいのか。
工作とか絵が好きならそれを。
そういったものを作るのはいかがでしょうか。

■みんなで苦しむのはやめた方がいい
計算や漢字は拷問ですか、という印象です。
それを伝えている間は、先生との関係性は作れないのかなと思います。

先生は自分に求めてくるが、自分のことは理解してくれていないと思う。
それはお母さんにも伝わるので、辛くなります。
関係性はよくならないです。
勿体無いです。

それでも来られているのは、お母さんの努力です。
担任もそれをわかってきているから苦しいのですよね。

みんなで苦しむのはやめた方がいいです。
先生も、保護者も、この子も。
それを一度やめて、気持ちを楽にして。

家から出た方がいいですよ、というデータがありますので、その中でどうしたら最もラクかを考える。

私のクリニックに来ているお子さんでも、車で学校まで行って、すぐに帰るお子さんがいます。
先生にも会いたくない。
クラスメイトにも会いたくない。
だから、人のいない教室のホワイトボードに「来たよ」というマグネットを貼って帰る。
それを続けているだけで、お母さんも、本人も、安定しています。
今では次の進路の話ができるようになってきました。

出かけることについて、学校や医者から認められていること。
これが安定につながっていると思います。

■小野先生
■勉強をしないのではなくて内容
約束って違うんですよ。

同じようなケースを多く見てきました。
ただしケースバイケースです。
特に不登校は。

本人が、ズルでワザとやっているのでしたら、いけません。
例えばゲームをしたいだけとか。

しかし、このお子さんは違うという印象を受ける。

似たようなタイプのお子さんを担任したことがあるのですが、小5で毎日飛び出します。
指導するとキレます。
勉強は何もしません。
支援学級に私がいたので、遊びに時々来ていました。
お母さんはモンスターで有名でした。
そのお母さんがある日突然やってきて、
「3学期から小野先生のクラスに入れて」
とおっしゃって、教頭が返事をしてしまったのですよ。

最初にしたことは、勉強がどのくらいできるのかなと思ってやらせました。
自分の名前の難しい漢字が書けない。
そういうレベルなので、勉強は辛いですよね。
勉強のために教室に入れないです。

私や河野先生がじっとしていることができると思いますか。
その状態を作ろうとしている。

そこで、私がしたのは、小学校の総復習という冊子です。
学年が書いていない問題集で薄いんです。
それをやりました。
たくさん丸をつけて「すごいな」と言いながら。
どんどん進めました。

薄いのですぐに終わります。
1週間ほどで終わりました。
「校長先生に見せに行こう」
というと、行きましたよ。
小5のお子さんが、小1〜2の問題で。

勉強をしないのではなくて内容です。
このお子さんは、これならやれるんだと思いました。

指導もしました。
総復習なので、難しい問題は「答え」を上手に使うんだぞ、と教えました。
「自分で必死に考えてできなかったとグチャグチャとするのは頭が悪いぞ」と伝えて、考え方を変えるわけです。

小6は、ほぼ来ました。
それなりに楽しく。
無理はさせません。
課題が早く終わったら遊ばせます、自由に。
するな、勉強と言って。

中学校も最初がんばったのですが、なかなか難しいですよね。
完全不登校になりました。

■学校の常識と世の中の常識
それが先日、会いました。
焼き鳥屋で。

17歳か18歳なっていたんですよ。
配膳が無茶苦茶うまい。
山ほど頼んでも、パパッとやっていく。
「頭いいなー」
というと照れていました。

社長さんに、
「教え子なんです、めちゃくちゃいい子なんです。」
と伝えました。

「社長になったらおごれよ!」
「いやー」
などのように言いながら過ごしました。

学校の常識と世の中の常識は違います。

人としてどのようにやっていくか。
学校としてどのようにやっていくか。
これは違います。

5年や10年の長いスパンで見ると、学校の対応は違うことも多いです。

そのように考えると、今回の事例はとてもよいものを出していただきました。
あるある話なんです。

■河野ドクター
■まとめ:完璧さを求めない
ちゃんとした相談ではないのがいいです。
聞きたいことが書いていないと、こんなのでいいのかと思ってしまいがちです。
いいんです。

質問を繰り返す中で、どういう情報がいるか、どういうことがあればもっと答えに近づくのかがわかっていきます。

完璧さを求めない方がいいのです。

できたらこうして欲しいはあります。
しかし、それがなくても、その中から学べることも多くあります。

子どもたちもそうです。
彼らも完璧な子供はいません。
何かが欠けていたり、何かができなかったり、サッパリどこから手をつけたらよいかわからなかったり…
そういった中でもわかることはあります。

それを手がかりにしてやっていく。
こうしたことが学校現場の面白いところですし、醍醐味かなと思います。

※内容の全部、もしくは一部の無断転載を禁止します。
※本記事の内容は「K’s club サロン」の一部です。お子さんの発達や障がいなどについて、さらに詳しく知りたい方は下記をご覧ください。

〈ドクター〉
河野政樹(虹の子どもクリニック院長)
〈特別支援教育専門家〉
小野隆行(株式会社イージスグループ代表取締役)

〈引用〉
K’s club サロン
https://hikarinoniji.supersale.jp/about#mainabtkuMDE1Mj
K’s club サロン:発達障がい関連グッズ
https://hikarinoniji.supersale.jp/categories/3084689#mainidxkyLjg4Mz

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