【障がい者雇用】概念から変わった「生活介護」

■思っていた生活介護と違う

広島県福山市にある生活介護事業所ライフパスに寄らせていただいた。
福山駅からおよそ40分ほど海側に車を走らせたところにある。
周りは民家が立ち並ぶ地域。

周りの民家と比較をすると立派な鉄筋コンクリートの建物。
元病院とのことだった。

案内の方をお待ちして、早速建物の中へ。
コロナ禍ではすっかりお馴染みになった消毒を済ませる。
と、それだけではなかった。
コロコロがある。
絨毯の毛くずなどを取るあのコロコロだ…
洋服にある埃などを取るためだった。
ジャケットもパンツも丁寧に埃を取り、入所。

挨拶を済ませ、仕事の内容を伺った。
「弁当づくり」
あれ?と思った。
生活介護ですよね?と。

着替えを渡され、ロッカールームのある2Fへ。
隣の部屋は手術室。
病院時代の面影がある。

着替えて、部屋を移動。
二重扉を一枚超えたところで、もう一度消毒とコロコロ。

そこには、山のような弁当を作っている障がい者の方たちが8名いらっしゃった。
両手に青い手袋をして、その上からもう一枚透明なビニール手袋をしている。
ほとんどが重度知的障がい者とのことだった。
若い方もいれば、50代程度の方もいらっしゃる。
そのみなさんが4名の支援員の声かけを受け、自分一人で盛り付けや具材の運搬をしている。
時々、マスク越しに声を出したり、跳ねたりしながらも、作業は前に進んでいる。

やっぱりイメージが違う。
「働く障がい者」を知り始めて、全く違う世界があることを学んだ。
私が今まで本やネットで得た「生活介護」の概要は「食事・入浴・排泄などの介助サービスを提供する場」だ。

しかし、目の前のみなさんは、弁当を作っている。
数百という数の弁当だ。
みるみるうちにバラバラだった食材や具材が、弁当容器に納まって運ばれていく。

11時になり、少し弁当づくりが落ち着いた頃、半数の方が部屋から離れた。
休憩だそうだ。

私たちはその間に、野菜や鶏肉を切る。

利用者の障がい者のみなさんは次のような作業をしていた。
・弁当の具材を切る
・煮る
・小さな器に盛る
・弁当容器に入れる
・蓋をする
・米を洗う
・鍋を洗う
・台を拭く
・掃除をする
・お茶を入れる
本当に様々な作業を「分担」している。

こだわりがあったり、キャパシティが大きくないためできる作業に限界があったりする。
そういった中でこれだけの作業を分担してできること自体に大きな驚きを感じた。

■どうして生活介護でここまで?

一通り作業が終わってから「すごい」と感じたことを伝えると、管理者の方が次のようなことを教えてくださった。

生活介護では、できないことをできるようにすることも大切です。

しかし、それだけではありません。
フェードダウンです。
緩やかにできていたことから離していくことも大切です。
今まで一般就労やA型で働いていた方が仕事を離れると、一気にしんどくなってしまいます。
100働いていたのが0になる。
これはダメージが大きいです。
定年を迎えた。
離職することになった。
これらは100あった仕事が60や70くらいまで落ちただけです。
0ではありません。
なのに0にする。
これは、金銭面はもちろんなのですが、生活面がダメになります。

そこで、工賃6万円以上(一般的には1〜1.5万円)を目指しつつ、一定の仕事をしていただきながら、身体機能や生活能力向上のための支援をしています。
生活と就労は密接に関わっています。

休憩時間になったら、支援員と散歩に出かけたり、2Fを走ったりしているのは生活支援の一環です。
そうやって体力を維持し、働くこと、生活すること、よりよく生きるための支援をしています。

■障がい者だからお金と無縁なんてことはない

それから…と話を続けてくださった。

もちろん一般的な生活介護もします。
先程おっしゃった「食事・入浴・排泄などの介助サービスを提供する場」のみでも利用できます。
そういう利用目的で入って来られる方もいます。

折り紙を折ったら、歌を歌ったらのように「〇〇をしたら」クーポンを渡す。
クーポンを貯めたら、それでコーヒーが飲める。
そういうシステムもあるはあるのです。

しかし、ここに来た方は3日も経てば変わります。
向こうの部屋で働いてみたい、と。

「あれ?あの部屋で弁当づくりをしたらお金がもらえるようだぞ」
とわかったら皆さん行きたいとおっしゃるのです。

障がいがあるからできない。
そうではありません。
クーポンを渡せるならば、現金でもよいのです。
モチベーションを考えた時に、やりがいを考えた時に、やはりお金は強いです。

健常者と言われる方たちも全く同じですよね?

確かにそうだ。
私もクーポンではがんばれない。
やはり現金だ。
自身の様々な目的のためには欠かせない。

障がいがあるから…と勝手な線引きをしていたのは、提供側の一方的な考えだったのかもしれない。

■老いが早い障がい者

健常者の中で、離職すると急に老いるという話をよく伺う。

この話、障がい者だと加速度が違うそうだ。
老いが早い、と。

離職だけが理由ではなく、老いが早いのだそうだ。

できることを増やしたり、クオリティを高めていくことを考えることはもちろん必要だ。

それと同時に、老いに備える。
少しずつ仕事から離れていく。
こういったこともプログラムとして行っていく必要性があるということを学ばせてもらった。

離れることも教える。
生活介護の別の側面を拝見させていただいた。

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